「Missing...」本文より、一部抜粋。


       「これからどうすっかな」

       街に出てきたはいいが、手持ちもないし何をする気にもなれない。
       何のあてもなくブラブラと歩いているだけ。人ごみの多い雑多な街並みを俺は一人彷徨っていた。
       確か、前に八神と会ったのもこの近辺でのことだった。

       「何やってんだろうな、俺」

       歩道の真ん中で立ち止まり俺は一人ごちた。さっさと家に帰って昼寝でもすればいいのに。
       何故俺はこんなところを歩いているんだろう。

       ―まさか、期待してる?何を?八神が現れるのを待っているんじゃないのか?
       ―いつものように自分に声をかけてくるのを‥‥‥

       そこまで考えて俺の思考はストップした。ついで血液が顔に集ってくるのが自分でもわかる。

       「だーッ!だから何で俺が八神のことを考えなきゃいけないんだよ!」

       自分自身の考えにムカついてガシガシと頭をかく。ふと我に返れば自分に対する周囲の奇異の目線。
       バツが悪くなって、慌ててその場から歩き出した。

       「ったく、さっきから碌な目にあわねぇ」

       ―こーいう時は家に帰って寝るに限る。

       そう結論づけた俺は家に帰るべく、次の角を左に曲がった。
       瞬間、視界の隅に写ったのは鮮やかなほどの、赤。

       「‥‥‥ッ!」

       あの髪の色、後ろ姿‥‥‥八神!
       思わず振り向いた先にはベースを背負った八神の姿があった。こっちには気づいていないようだ。
       確かプロフィールに趣味はバンド活動とか書いてあったような……(KOFアンケート調査による)。
       ベースを持っているところを見ると、これからバンドの集まりか何からしい。
       八神はこの人ごみの中、誰ともぶつかることなくスイスイと泳ぐように進んでいく。

       ―どこに行くんだ?八神が俺に気付かないなんて珍しい。‥‥‥‥‥。

       興味の湧いた俺は八神の跡をつけることにした。

       ―いつもいつも人のこと付け回しやがって。今度は俺が尾行してやる。
       ―なんてったって俺は超一流の格闘家だし、気配を消すのぐらいちょちょいのちょい、だ。
       ―テメェのプライベートを暴いて、弱点を見つけ出してやる!

       そう決心すると、俺は八神を見失わないように距離を置いて歩き始めた。


      ・・・・・・・・・


      ちょっとしたシリアス。
      京を待ち受けているものは一体・・・
      他にもSSを1話収録。こちらはほのぼのラブです。