一月一日・元旦。
今日この日から、また新たな一年が始まる……
ピンポーン♪
「ん?新年早々誰だ?」
自宅でのんびりまったりとお正月を過ごしていた俺は突然のインターホンに読んでいた雑誌から顔を上げた。
来客の予定はないが……。訝しみながら来訪者を迎えにドアを開けに行くと、そこに立っていたのは……
「よぅ八神。新年だってのに相変わらずしけた面してんなぁ」
「京……?」
「ま、とりあえず……新年あけましておめでとう。今年もよろしく頼むぜ」
「あ、ああ……。こちらこそよろしく頼む……」
ニコッと微笑んで新年の挨拶をしてくる京に戸惑いながらも挨拶を返す。確かに前に一度、京が此処に来た事
はある――大人数でな…あいつら騒ぐだけ騒いで帰りやがって(涙)――が、何故京が此処に……
「ところで八神……今、暇か?」
「これといって用事はないが、何か用か?」
「なら初詣に行かねぇ?八神のことだからまだ行ってねぇだろ」
確かに行っていない。正直、行く気もなかったというのが本心だ。神なんぞ信じていないし、何より人が多い。
もみくちゃにされて疲れるだけに決まってる……
だが、京と一緒となれば話は別だ。京の為ならたとえ火の中水の中どこまでだって……(以下略)。この時点で
俺の心は決まった。しかし……おかしい。いつもならば京の金魚のフンよろしくついてくる邪魔なヤツらの姿
が見えるはずだ。初詣などというおいしいイベントをヤツらが逃すはずは……
不審に思い、思わず玄関から身を乗り出してキョロキョロと辺りを見回す。
「……?どうした?」
「いや、ヤツらはいないのかと思ってな…」
「真吾達のことか。今日はいねぇけど?それとも……呼ぶ?もしかして、俺と二人じゃ嫌なのか?」
「そうじゃない。お前のことだから、皆で行くんじゃないかと思っただけだ」
しゅんとしてしまった京の様子に慌てて弁解する。寧ろ二人だけの方が都合がいい。俺にとってヤツらに邪魔
されないことは願ってもないことだった。
「まぁな…実際あいつらに誘われたんだけど、正月くらいはゆっくりしようと思ってさ。その………お前と」
「そう、か……」
ドキッとした。まさか京の口からそんな言葉を聞けるとは思っていなかった…
沸き上がる感情を抑えるために自然と表情は消え、声も硬くなる。
「ほら、なんだかんだと一緒には居たけどさ、いっつもあいつらに邪魔されてお前とゆっくり話したことって
なかっただろ?」
「そうだな……」
「新年だし、ちょうどいい機会かなって思ってさ。一緒に行かねぇか……?」
「………//」
「八神……?」
何も言わない俺に不安になったのか、瞳が揺れている。正確には言わないのではなく、微かに首を傾げて俺を
見つめてくる京の姿に魅入ってしまい、何も言えなかったのだが……
「………行く」
「えっ?」
俺の声が小さくて聞き取れなかったのか、可愛らしい目をぱちくりとさせている。
「せっかくのお前からの誘いだ。断る訳がないだろう?」
「それって……」
「それに、断ると何をされるか判らんからな。従っておくのが一番だ」
何かを言いかけた京の声を遮り、冗談めかしてニヤリと笑ってみせる。京は暫く口を開けてポカンとしていた
が、やがて可笑しそうにふき出した。
「プッ……何だよそれ…」
「そのままの意味だが?」
少しの間笑い続けていると、突然俺の腹目掛けて拳を繰り出し、それを軽く掌で受け止める。さして本気では
なかったようで簡単に止めることができた。京の表情を窺ってみると、嬉しそうに笑っていた。
「何のつもりだ?」
「ヘッ……さぁな。おらっ、八神行くぜ!」
そう言うとクルッと振り向き、一人でスタスタとエレベーターの方へ歩いていく。どうやら準備をする時間は
ないようだ。財布と鍵だけを持ち、家を出る。
一年の計は元旦にありというが……この分だと今年も京に振り回されそうだな。
「それもまた悪くはない、か……」
「あぁ?何か言ったか?」
「いや………」
「んなとこでボケッと突っ立ってないでとっとと行くぜ?じゃねぇと置いてくからな」
それでは誘いに来た意味がないだろう、と返せば、京もまたムキになって返してくる。そんな他愛もない会話
を楽しんでいる俺の胸の裡に一つの思いが自然と浮かんできた。
今年もまた、京と共に在れますように……
〜終〜
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