「K'さん、ちょっと行ったところにお寺があるんですけど一緒に初詣に行きませんか?」
「初詣?」
「はい!人がいっぱいで大変ですけど、やっぱり年明けするなら初詣に行かないと。一年の計は元旦にありっ
て言いますしね」
気怠げに顔を上げたK’に目をキラキラさせて初詣に誘う真吾。ちなみに現在時刻は12月31日の夜、11
時過ぎ。カウントダウンにはまだ早いが、外へ出るのなら遅すぎる時刻である。神社やお寺には既に沢山の人
が集まっているに違いない。それを思い浮かべてK’はうんざりといった表情を浮かべた。
「俺は人ごみが苦手なんだ。わざわざそんなところに出向くヤツの気が知れないぜ…」
「初詣って大事なんですよ?今年も無事に過ごせますように、ってちゃんと神様に頼まないと」
「寺は仏じゃなかったのか?」
乗り気ではないK'を連れ出そうと説得を始める真吾。説得と言っても真吾らしい子どもじみたものだったが、
その言葉に疑問を抱いたK'がツッこみを入れた。一瞬「え?」といった顔をする真吾だが、すぐに気を取り
直して世間知らず(笑)なK'に軽く説明を始める。自分の主観も混ぜた適当な説明を。
「偶に核心をつく質問をしますよね、K'さんって。そりゃお寺は仏さまを奉ってて神社は神様を奉ってます
けど、それは言葉のあやというか…そんな細かいことはどうでもいいんです」
「そうなのか?」
「ええ。日本はそんなものっスよ。頼む対象が神か仏か、それだけの違いです。俺はそんな信心深い人間じゃ
ないですから、どっちでもいいんですよ。ただ近くにあるのが神社じゃなくて、お寺ってだけで」
「信じてもいねぇのに頼みに行くなんておかしな話じゃねぇか」
「ええ、確かに信じてませんよ?でも日本じゃ古くからの風習になってるんで行かなきゃいけない気がすると
いうか毎年恒例というか、要は心の問題です。お願いですからもうこれ以上ツッこまないでください…」
「そ、そうか…」
まるで子どもに説明してるみたいだな…とか思いながら根気よく説明していた真吾も流石に限界のようだ。
詳しく聞かれると、そんな大した理由もないので説明に困ってしまう。大体の人間がみんなが行っているから
何となく、という理由ではないだろうか。この時代に神や仏を信じている人なんてほとんどいないだろう。
理由が曖昧なのは日本人の悪い癖だ。
そんな訳で、真吾も大した理由を持たない人間の一人なので項垂れてしまったのである。K'も過去の記憶が
曖昧で世間知らずな上、日本人ではない彼にはその理由が分からず純粋な疑問をぶつけているだけなのだが、
真吾が困っているのでとりあえずそういうものなのだと納得することにした。後でマキシマにでも聞くのかも
しれない。
説明にも一段落ついたので改めて説得を試みる。K'との距離を少し縮め、両手を祈るような形に組んで下か
ら潤んだ瞳でじっと見上げる。真吾の必殺、おねだりのポーズだ。これを天然でやっているのだから恐ろしい。
天然だろうが計画的だろうが、K'に絶大な効果を誇るのは言うまでもない。
「K'さん一緒に行きましょうよ〜。ねっ?俺、K'さんと一緒に行きたいです…」
「うっ…// わ、分かった。行ってやるから泣くな…」
案の定、K'はすぐに落ちた。優しく真吾の頬を撫でて宥める。K'の手の感触に目を細めながらも、尚も真吾
は見つめ続ける。
「ホントっスか…?」
「ああ。だから……」
泣くな、と言おうとした矢先、返事を聞いた真吾はニッコリといつもの笑顔に戻った。先刻の表情が嘘のよう
な嬉しそうな笑顔だ。
「わぁ〜い♪じゃあ早く行きましょう!急がないと年が明けちゃいますから♪」
「……………」
急にハイテンションに戻った真吾に心も身体も追いついていけないK'。何やら呆然としている。色で形容する
と真っ白だ。いつも元気に飛び跳ねているプラチナブロンドも心なしか跳ね具合が足りない気がする。自分が
何をしたか自覚のない真吾は不思議そうにK'を眺めている。
「K'さん?どうかしたんスか?」
「……何でもない」
「そうですか??でも、元気ないっスよ?」
「気のせいだ。ほら、初詣行くんだろ。とっとと行くぞ」
考えることを放棄したK'は立ち上がり、一人でさっさと出て行こうとする。慌てたのは真吾だ。遅れて立ち上
がり、近くにかけてあったコートを手に取って身支度を整えている間にK'は見向きもせず部屋を出ていこうと
する。
「あっ、待ってくださいよぉ!K'さんお寺までの行き方知らないでしょ?道に迷っちゃいますよ〜?」
その言葉にピタッとK'の歩みが止まる。真吾の言う通り、K'はお寺までの道を知らない。まして今は真夜中
だ。明るい昼間ならばまだしも、真っ暗な道を勘で歩くのは危険すぎる。外が暗いとたとえ知っている道でも
間違える可能性は高いのだ。加えてK'はこの辺の地理に詳しくはない。つまり、どうやったってK'が寺まで
無事に辿り着けることはないのだ。
真吾の指摘にK'は言葉を失ってその場に立ち尽くす。その間に身支度を整えた真吾は、首を横に傾けて笑顔で
K'を横から覗き込む。
「……ね?」
「…早く案内しろ」
「はい!」
こうして、初詣に行くことが決定したK'と真吾。今年最後の、そして来年初めてのデートが決まった訳だ。
K'は人の多さに辟易していたが、真吾はニコニコと嬉しそうにK'の隣で微笑んでいた。その人ごみに紛れて
こっそり手を繋いでいたのは二人だけの秘密だ。
〜終〜
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