「ったく、紅丸のせいで最悪だぜ。ぁ〜あちぃ……」
行くあてもなくぶらぶらと街を彷徨い歩く京。もちろん後ろにはあのお方。つかず離れずの距離でついてくる。
どこか店でも入って涼めばいいのだが、入れるだけのお金があればとっくに入っている。そう、紅丸を呼んだの
はそのためなのだ。そのためだけに呼び出された紅丸に同情を禁じえない。一番の獲物を失った京は次なる獲物
を探し始めた。
「他にどっか涼めるとこねぇかな〜。ユキん家…いや、ユキのことだから勉強しろってうるさいだろうし…真吾
…もっとダメだな。土日はバイトで忙しいとか抜かしてやがったし、後すぐに連絡のつく奴といやー……」
チラ、と目線だけを後ろの赤毛に送る。まだ気付かれていないと思っているのか、時々物陰に隠れながら此方の
様子を伺っている。その姿ははっきりいって怪しい。通行人がチラチラと振り返っては通り過ぎていく。太陽だ
けでも暑いのに後ろからじっと見られていれば、体感温度も上がるというものだ。ますます暑苦しく感じてくる。
京は深い深い溜め息をついた。
「やっぱあそこで出てくるんじゃなかったぜ…」
・・・ん?待てよ?
よくよく考えたら全ての原因はこいつじゃねぇか。
そうだ!こいつが全ての元凶だ!ならその元凶に責任取ってもらえばいいじゃねぇか!
俺ってあったまいい〜〜!
何やらこじつけのような気もするがそうと決まれば京の行動は早く、くるりと振り返って赤毛―八神庵を真正面
から見据えた。
「おい、八神」
「フッ、やっと気づいたか京」
鈍いやつめ、とばかりに勝ち誇った笑みを浮かべ物陰から出てくる庵。それに対し京は呆れ顔だ。
「まさか、俺が今頃気づいたとでも思ってンのか?」
「なに?」
「お前が俺のケツ追っかけ回してんのなんて俺はとっくの昔に気づいてたぜ?」
「なっ!?ならばなぜ…」
驚愕の表情を浮かべる庵に京はハッキリキッパリと答えた。
「めんどくさかったから」
あきらかにバカにされているその答えに庵の頭に血が上る。
「貴様……!今日こそ息の根を止めてくれる!!」
「そんなことはどうでもいいんだよ。とにかくお前のせいで俺は苦しい思いをしてるんだ。責任取りやがれ」
「………は?」
京にズビシッと指を差された庵は訳がわからない、そして予想だにしなかったセリフにポカンとしている。
「は?じゃねぇよ。いいか、もう一度言うぞ。お前のせいで俺は今現在進行形で苦しい思いをしてるんだ。その
元凶たるお前が責任を取ってくれねぇ限りこの苦しみは続く」
「…………………」
「だから、そうだな…まずお前ン家に連れてけ」
「……………何を……言っている?」
いまだに庵は呆然としている。というか、混乱していた。京の台詞が庵の頭の中で駆け巡る。
苦しい思い?俺のせいで?責任?何の?それでなぜ京を俺の家に連れて行くことになる?
焦れたように頭をかいた京は、庵の腕を強引に引っ張って無理矢理歩かせる。
「わっかんねぇ奴だな。何でもいいから、俺をお前ン家に連れてきゃいいんだよ!ほら行くぞ!」
「???」
かくして、状況を飲み込めないうちに京に引っ張られ、自分の家へと案内する庵なのであった。
(今日のわんこ風)
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