リビングのテーブルの上。そこには色とりどりの包み紙が広がり、部屋には甘ったるい匂いが漂っている。
これらの元凶は今庵の目の前にいる男――草薙 京である。
それらの包み紙に包まれていたであろう黒い塊を、次々に頬張っては口の中で転がしている。そんな光景を
この部屋の持ち主である庵は不機嫌そうに眉根を寄せて眺めていた。

「…何だこれは」
「何って、バレンタインのチョコ。たくさん貰ったからありがたーく頂いてるの」

そんなことを聞いているんじゃないと言いたいところをグッと抑える。本当は別のことを聞きたかったのだ
が、どうせまともな回答は得られないだろう。京のこういうところにはもう慣れた。

今日はバレンタイン・デー。
京がこれだけのチョコを受け取っているということに些か不満を覚えないでもないが、仕方がないと諦める
と同時に淡い期待が湧き上がる。やはり愛する恋人からは貰いたい。
庵自身は甘いものは好きではない…どころか苦手だが、それとこれとはまた話が別である。最もそんなこと
を思ったのは京が初めてだが…

「京、お前から俺へのチョコはないのか?」
「はぁ?そんなのある訳ないだろ?何言ってんだバーカ」
「……………」

照れ隠しでも何でもなく、本気で言いながらまたもチョコを頬張る京。予想はしていた、覚悟もしていた。
だが、最後に残された希望をまんまと打ち砕かれて、内心面白いはずがない。

「……そうか。なら勝手に頂くとするか」
「へ?…んんっ!?」

庵はテーブルの横に立って京の顎に手をかけるとそのまま唇を寄せ、庵の舌は油断していた京の咥内に易々
と侵入を果たす。そこに丸々残っていたチョコを互いの舌で挟み込むようにコロコロと転がし、チョコと京
を同時に味わう。
咄嗟に庵の胸に押し当てた京の手が、その快感に耐え切れずプルプルと震えている。

もはやチョコが甘いのか、それとも庵とのキスが甘いのかも分からなくなっていて、チョコが溶け切るまで
続いた深く長いキスは京の思考を溶かすには充分だった。

「甘いな…」
「ッ…はぁっ……」

やっと解放された京の口から甘い溜め息が零れた。キスの余韻で頬は赤く染まり、目が潤んでいる。そんな
様子の京を庵は目で楽しんでいる。京はグイッと口元を拭い、呼吸が落ち着くのを待って、庵を見上げた。

「いきなり……何すんだよ…?」
「バレンタインのチョコを貰っただけだが?お前の唇はいつも甘いが、今日はまた一段と甘かったな」

その台詞に京の顔は羞恥で更に赤く染まり、全身の毛を逆立たせた猫の様に怒りを露わにする。

「………ッッ!何こっ恥ずかしいこと真顔で言ってやがる!?俺のチョコ勝手に食いやがって……!」
「安心しろ。ちゃんと返してやる」
「え?」
「3月14日にな。確か……3倍返しが基本だったか」

いつもより素直な庵の態度に京の脳裏を嫌な想像が過ぎる。庵のことだ、言ったことはやってのけるだろう。
しかし、ただ大人しく普通にお返しをするとは思えない。まさか今のキスも含めて3倍にする気なんじゃ…

「今日の分を3倍にして返してやる。嬉しいだろう?」

ニヤリと笑う庵に、やっぱり…と京は確信した。今日の分、と庵はわざわざ繰り返した。チョコのことだけ
を言っているのではないだろう。
マズい、と思った時にはもう後の祭り。完璧に庵のペースだ。

「いや、別に俺は……ι」
「一ヵ月後を愉しみに待っているがいい。ククク……ハハハハ…ハーハッハッハッハッハッハッ!」

庵の三段笑いが響く中、京はただただ青ざめるしかなかった。こうして京にとっては恐ろしい、庵にとって
は待ち遠しい3月14日へのカウントダウンが始まったのである……

果たして京は3月14日に美味しく喰べられてしまうのか!
それよりもまず、ここから無事に帰れるのか!
京の運命やいかに!?





タイトルまんまですね;
これくらいしか思いつかなかったもので。
しかも、短いし。
というかベタ過ぎです。ベッタベタです。
ベタ過ぎて紙吹雪が舞うことでしょう。(え?)
ま、まぁ、たまには初心に帰ってみるというのも……
ごめんなさい、言い訳ですorz
あぁ、ネタが欲しい・・・
ちなみに、ホワイトデーに続くかどうかは謎です。

06.02.17