私が書いた「クリスマス事情」の本文より、一部抜粋。


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   「草薙さん?もしかして、プレゼント用意してないんスか?」
   「…そういうお前はどうなんだよ」
   「もちろん、買ってありますよ。この日のために毎月バイト代からちょっとずつ貯めてましたからね!」
   「あっそう…」
   「後はケーキを焼くだけっス。…あ、草薙さんも一緒にどうですか?クリスマスケーキ作り」
   「はぁ?」

   何言ってんだよ。何で俺がケーキなんて作らなきゃならねぇんだ。買えばいいだけの話だろうが、買えば。
   バカらしくて声も出ない俺に話は尚も続けられる。

   「八神さんに作ってあげればいいじゃないですか。材料費もそんなにかかりませんし、八神さんって甘いの苦手でしょう?
    だから甘さ控えめにして……。手作りケーキを貰って嬉しくない人はいませんよ。八神さんだって、草薙さんが作ったっ
    て聞いたら絶対喜んでくれますって」
   「…そんなもんか?」
   「そんなもんです」

   ふ〜ん、なるほど。確かに庵はケーキが苦手だからいつも俺がほとんど食ってるし、
   俺が自分から何かを作って庵にあげたことなんて一度もないし……喜んでくれるかな?
   金もあんまかからねぇみたいだし、これをクリスマスプレゼントにしちまえば……

   「…結構いいかもな」
   「でしょう?俺、誰にでも簡単に作れるケーキの作り方教えますから」


   (中略)


   「お帰り〜♪」
   「ただいま…京、起きていたのか」
   「うん。庵が帰ってくるの待ってた」
   「それはすまなかったな。……ん?京、何処か行っていたのか?いつもと匂いが違う」

   庵が俺の髪に顔を埋めて、匂いを嗅いでいる。
   ヤベッ、ケーキの匂いでもついたかな…

   「あ、あぁ、真吾の家。ゲームやりにちょっとな」
   「……そうか…」

   ここでバレたらマズいからな。
   何としても隠し通さねぇと…

   「そ、それより、バンド練習お疲れ様。疲れただろ?
    何か飲むか?」
   「京……」

   庵から離れてリビングへ行こうとしたら、腕を掴まれて引き止められた。
   ちょっと不自然過ぎたか…?ι

   「何‥‥?」
   「…いや、何でもない。コーヒーを頼む」
   「うん、分かった。淹れてくるから座って待ってて?」
   「あぁ…」

   危ねぇ…バレたかと思ったぜ。でも明日には分かることだし、少しの間だけ秘密にさせてくれよな、庵。

   「………………」

   コーヒーを淹れに行った俺の背中を見ていた庵の視線が、どこか冷たく揺れていたことに俺は気付かなかったんだ。
   もし気付いていれば、あんなことにはならなかったかも知れないのに…
   まさか庵があんなことを思っているとは思わなかったから……


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