前回までのあらすじ…
のんびりしていた成歩堂のところに狩魔検事や千尋さんが押し掛けてきてさぁ大変!
何故か追いかけ回されることになってしまった。
捕まったら命はない!
途中矢張やイトノコさんを犠牲に辛くも逃げ続ける成歩堂。
一方、冥はイトノコに邪魔をされ成歩堂を見失い、千尋&真宵はあやめを使役し成歩堂を追跡中。
……御剣は冥に謀られ鬼神のごとき表情で現在裁判中。
この恐ろしいメンバーの中で成歩堂は生き残れるのか!!
成歩堂の命運やいかに!
それでは、続きをお楽しみに下さい・・・
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同日・11時47分
地方裁判所
「やっと‥‥着いた‥‥」
成歩堂はよろよろと裁判所へと入っていく。
今日ここでは裁判が一件行われていた。その裁判を傍聴していれば、いくらあの3人といえども手は出せな
いだろうという魂胆である。裁判が終わるまでの一時の時間稼ぎにしか過ぎないが、とにかく休みたい。
事務所からここまで走ってきたのだ。途中少しは休むことは出来たのだが、屋外の固い地面だったり冷たい
コンクリートの上であったりして居心地は最悪だった。
誰にも邪魔をされず、温かい場所で普通の椅子に座ってゆっくり休みたい。それが可能な場所こそが、この
裁判所だったということだ。
実はその裁判こそ御剣が急遽担当させられているものだった。そんなことは露知らず、一歩一歩確実に廊下
を進んでいく成歩堂。だが、世間は成歩堂に冷たく出来ていた。
「おや、キミは成歩堂君じゃないですか」
「え? さ、裁判長? 何でここに? 裁判は??」
裁判の真っ最中なんじゃ…
そんな成歩堂の思いを感じ取ったのか、裁判長は成歩堂にとって最悪な答えを聞かせてくれた。
「ああ。裁判ならもう終わりましたよ」
「ええっ! そんなっいつ!?」
「さっき終ったところですから、10分くらい前でしょうかねぇ…」
「そんな‥‥」
最後の望みがあっけなく崩れ去り、成歩堂の顔がサァ、と青くなる。今にも崩れ落ちそうだ。
「今日の裁判は白熱していましたよ。妙に力が入っていたような……成歩堂君? どうかしましたか?」
心配そうな裁判長の声は、もはや成歩堂の耳には届かない。
裁判が終わってしまった以上、ここにいる意味はない。もう少ししたら、狩魔検事や真宵たちが追いついて
くるかもしれない。それでは今までの苦労が水の泡となってしまう。
追いかけてきたときの冥や千尋の顔が頭に浮かぶ。途端、猛烈ないきおいで背筋を走る悪寒。
それだけは、避けなければ。
「す、すみません。僕はこれで失礼します…」
「そうですか。車に気をつけるんですよ」
裁判長に背を向け、歩き出す成歩堂。再び街へ出て、彼女達から逃れるために・・・
しかし、時既に遅し・・・
「……どこに行くつもりなのかしら? 成歩堂龍一……?」
ビシィッ!!
「はぅっ!!」
「ひぃ!」
成歩堂のすぐ隣をムチが音速で駆け抜け、裁判長の目の前で弾ける。数メートル先にメイの姿があった。
ムチを構えて不敵に微笑んでいる。
「今のはわざと外したのよ。次は…当てる。もう逃げられなくてよ、成歩堂龍一」
どこからともなく現れた冥は見た者を凍らせるような微笑を浮かべ、コツコツと靴音を響かせて成歩堂へと
近づいて行く。成歩堂は足が竦んで動けない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
為す術もなく、ただただうさぎの様に震える成歩堂とおまけの裁判長に容赦なくムチを振り降ろす!
成歩堂にはもはやムチを受けとめる体力は残されていなかった。覚悟を決め、ぎゅっと目を瞑る。
あぁ…僕、ここで死ぬのかな……
パン!バシッ!ビシシィッッ!
「ほわゎぁあぁ…!」
「うぎゃあぁ…!
………アレ?痛くない?」
巻き添えをくらって倒れる裁判長。ただそこにいただけなのに(涙)
その点、狙われたはずの成歩堂は無傷で立っている。その訳は・・・
「リュウちゃん! お怪我はありませんでしたか!?」
「あ、あやめさん!? どうしてここに…」
成歩堂が無傷でいられたのはあやめのおかげなのである。成歩堂に向かってムチを振り上げる冥の姿を見つ
けて、間一髪駆けつけたという訳だ。
「千尋様と真宵様にお聞き致しました。リュウちゃんが大変な危機に見舞われていると」
「千尋さんに!? た、確かに結構危なかったけど…」
「私を無視して話を進めるんじゃない!!」
ヒュ‥パシィィン!
一人のけ者にされて面白くない冥は再びムチを振り上げるが、それに気付いたあやめは成歩堂を連れてその
場から飛びすさる。これも普段の修行の成果なのだろう。
「クッ‥‥やるわね‥‥」
「メイ様! お止めください! 何故このようなことをするのですか!?」
あやめは涙目でキッと冥を見据える。冥も負けじとあやめを睨む。
ただただ睨み続ける二人と横で冷や汗だらけの成歩堂。膠着状態のまま、ピリピリとした空気が流れている。
そこにドタバタと緊張感のない足音が響いてきた。
「あーっ! ナルホド君発見!!」
「でかしたわ真宵!」
途端、成歩堂の肩が大きく震えた。もちろん歓喜ではなく、恐怖に。
ああ‥なんでこんな時に……最悪だ。
「千尋様! 真宵様!」
嬉しそうに叫ぶあやめに千尋は鷹揚に頷いてみせた。
「お待たせ〜! 助けに来たよ!!」
「あやめさん、よくやってくれたわ。後は私たちに任せて」
あやめは頷き返し、成歩堂を連れて後ろに下がる。拒否する理由もないので成歩堂も大人しく従う。もはや
ツッコむ気力さえ残されていなかった。
千尋はふてぶてしい笑みを浮かべ、冥もまたうすら笑いを浮かべ、千尋を見やる。
「随分と来るんもが遅かったようだけど? やっぱり年なのよ。おばさんはすっこんでなさい」
「言うじゃないの。永遠の27歳の私に向かって」
「ふんっ。充分おばさんだわ!」
「あたしはまだ18歳だよ!」
「あなたはまだまだ子供よ」
「あら。狩魔検事だって充分子供じゃないの」
成歩堂の目の前で女の闘いは展開していく。空気が3人を中心に渦を巻いているのが判る。熱風が成歩堂の
頬を撫でた。
こ、恐ぇ……今のうちに逃げ出したいけど…あやめさんにがっちり捕まれてるし。どうすれば…
「おやおや…何を騒いでいるんだ? コネコちゃん達は」
「ご、ゴドー検事!」
思わぬ人物の登場に、成歩堂は天の助けとばかりに目を輝かせた。
「ゴドー検事! 助けて下さい!」
「‥‥成歩堂。随分といい格好してるじゃねぇか」
「え?」
成歩堂はあやめに腕をがっちり掴まれていたので、はたから見れば仲良く腕を組んでいるように見える。
そのことに気付いたあやめは赤面し、パッと成歩堂から身体を離した。
「す、すみません。リュウちゃん///」
「う、ううん、大丈夫//(ホッ…)」
「それで、どうなってやがるんだこれは?」
「それが、僕にもよくわからないんですけど‥」
成歩堂はこれまでの事をゴドーに話した。
今日がバレンタインで冥と千尋、真宵がチョコを持って事務所にやってきた事。
そして、何故か誰のチョコを一番に受け取るかを自分が決めることになり、誰を選んだとしても身の危険を
感じて必死でここまで逃げてきた事……。
「クッ……!モテモテじゃねぇか」
「嬉しくありません!」
「そう…ですか」
「あやめさん?」
あやめは千尋達の方をじっと見つめている。熱気が渦巻く中心へと・・・
「つまり…千尋様達はリュウちゃんを奪い合っている訳ですね……」
「う、奪い合うって…」
それよりも子供が人形を取り合ってるような感じがするんだけどな…
「それなら…私も」
「私も…って?」
「私もリュウちゃんにバレンタインのチョコを持ってきたんです。リュウちゃんに受け取って欲しくて」
「え!? あ、ありがとう…//」
「でも、それならば私も千尋様達と争わなければならないのですね…」
「いやいやいや! そんなことはないよ!!」
これ以上話をややこしくしないでくれ! 頼むから!!
慌てて否定する成歩堂にあやめは静かに首を横に振る。
「いいえ。皆様が正々堂々と闘っていらっしゃるのに、私だけ隙を狙うような卑怯な手を使う訳には参りま
せん。争いは好きではありませんが、仕方がありません。…それでは、行って参ります」
ニコッと微笑んで成歩堂に深い礼をした後、駆けていくあやめ。あやめが加わった事により、静かな争いは
また規模を増していった。
「あああぁ…どんどん状況が悪化していく」
「男なら泣き言を言うんじゃねぇ。…それが俺のルールだぜ」
思わず頭を抱えてしゃがみ込む成歩堂の隣でゴドーはコーヒーを飲みながら見物している。
「泣きたくもなりますってこれじゃあ! それならゴドー検事がなんとかしてくださいよ!!」
「俺はただの通りすがりだぜ?」
「だからこそです。第三者の制止が必要なんですよ!」
ゴドーを見る成歩堂の目に力が入る。ゴドーは静かにゆっくりとコーヒーを口に含む。
ゴクッ‥‥フー‥‥
「…わかった。そこまで言われちゃ仕方ねぇ」
「本当ですか!?」
「ああ。男に二言はねぇ。これも俺のルールだ」
それを聞いたとき、成歩堂の顔がパッと明るくなる。根が素直なだけに感情がすぐ顔に出てしまうのだ。
とても成歩堂らしい。今にも尻尾を振り出しそうな成歩堂に思わず微笑んでしまう。
「ありがとうございます!」
「その代わり、後で俺の頼みごとを聞いてもらうぜ」
「今のこの状況を何とかしてくれるんなら、何でもします! だから…・・!」
「その言葉、忘れるなよ?」
ニヤッと口端を上げるゴドー。その不敵な笑みすら今の成歩堂には神に見えた。
「あの…出来るだけ穏便に…」
「わかっているぜ」
ゴドーが渦の中心へと歩いていくのと同時に成歩堂は素早く物陰に隠れた。顔を少しだけ出して、千尋達に
バレないように様子を観察するつもりらしい。そこから小声でゴドーに声をかける。
「頑張って下さい!」
「ったく、あのボーヤは‥‥」
溜め息をつきながらも確実にバトルフィールドへと近づいていく。
「そこまでだ、コネコちゃん達」
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